2018年12月07日

【入江旧居の二十四節気】大雪

DSC_0335.jpg

P1090043.jpg



2018年12月7日は二十四節気の大雪。

入江泰吉旧居で長い間楽しませてくれた紅葉も終わりです。
日差しに映える紅葉も、黄昏時の少し翳りのある紅葉も、
どちらもとても美しいものでした。

紅葉が最高に美しい日。
入江旧居のソファに女性がひとり、座っておられました。
70歳代後半ぐらいでしょうか。
ご案内をしようと話しかけたとき、
その方が泣いておられることに気付きました。

「だめね、もうだいじょうぶかと思ったのだけど・・・」と小さな声でおっしゃるのです。
「何度もここに寄せてもらって、先生や奥様とおしゃべりをして・・・。
ほんとに楽しかったあ・・・・」。

涙をぽろぽろっとこぼしながら、
「ここが公開されるようになったって聞いて、すぐに来たかったんだけど、
少しこわくって。
だって、もう先生も奥様もおられなくなってしまったことが、まだうまくのみこめてなくて。
本当のことなんだって、思い知らされるでしょ」。

以前はこの旧居の近くにお住まいだったそうですが、
いまは引っ越して、奈良県外にお住まいのようです。
今日は、思いきって訪ねてくださったということでした。

「玄関を上がるのに、勇気がいったわ」
ともおっしゃるその人のそばに、
私はただ、うなずきながら、座っていることしかできませんでした。
しばらく静かな時間が過ぎて、
「やっぱり辛かったけど、来てよかったわね」。
自分に言い聞かせるようにおっしゃる顔は、とてもさびしそうに見えました。
「もしかしたら、これで、ここに来られるのも最後かも・・・、わたしももう年だから」。

ゆっくりと
ゆっくりと
小さくなっていく背中を見送りました。

入江泰吉先生が亡くなって26年。
まだまだ、思い出を大切に抱えている方々がおられます。
そういう方々にとって、
施設になってしまった今の旧居を訪れることは、少し辛い面もあるのだと改めて教えられたような気がしました。
写真家としての入江泰吉を称え、語り継ぐ場所であるだけでなく、
ひとりの人間としての入江先生をなつかしみ、奥様を思い出し、
静かに泣くことができる場所でもあり続けたい・・・。

そんなことを思いながら。

   文 倉橋みどり 写真 石井均



posted by アルカからのお知らせ at 08:27| Comment(0) | 入江旧居
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: